硝酸エステル類

危険物の性質と火災予防・消化方法 - 第5類(自己反応性物質)

硝酸エステル類とは、硝酸(HNO₃)の水素原子(H)がアルキル基(CₙH₂ₙ₊₁)で置き換えられた化合物の総称です。
硝酸エステル類は、酸である硝酸(H-O-NO₂)とアルコール(CₙH₂ₙ₊₁O-H)からできるエステル(CₙH₂ₙ₊₁O-NO₂)です。
硝酸エステル類は、空気中で自然分解して窒素酸化物(一酸化窒素(NO)や二酸化窒素(NO₂))を発生します。
硝酸エステル類に属する主な危険物には、硝酸メチル硝酸エチルニトログリセリンニトロセルロースがあります。

硝酸メチル(CH₃NO₃)
性 質 芳香のある無色の液体
◆比重1.2、蒸気比重2.7、引火点15℃
◆水にほとんど溶けないが、アルコール、ジエチルエーテルには溶ける。
危険性 引火性に加え、揮発性があり加熱・衝撃で爆発しやすい。
貯蔵・保管 ◆容器は密栓し、換気のよい冷暗所に貯蔵する。
消火方法 ◆酸素を含有しているため、消火は困難である。

 

硝酸エチル(C₂H₅NO₃)
性 質 芳香のある無色の液体
◆比重1.1、蒸気比重3.1、引火点10℃
◆水にわずかに溶け、アルコール、ジエチルエーテルには溶ける。
危険性 引火性に加え、揮発性があり加熱・衝撃で爆発しやすい。
貯蔵・保管 ◆容器は密栓し、換気のよい冷暗所に貯蔵する。
消火方法 ◆酸素を含有しているため、消火は困難である。

 

ニトログリセリン C₃H₅(ONO₂)₃
性 質 ◆無色の油状液体。甘味がある。
◆比重1.6、蒸気比重7.8。
◆水にほとんど溶けないが、有機溶剤に溶ける。
◆ダイナマイトの原料であるほか、狭心症治療薬としても用いられる。
(ダイナマイトは、ニトログリセリンを基剤とし、これにけいそう土・弱硝化綿などを吸収させた爆薬である)
危険性 ◆加熱・衝撃・摩擦を加えると爆発する。
◆8℃で凍結する。凍結すると、感度が高くなり危険性が増す。
貯蔵・保管 ◆火薬庫で貯蔵する。◆加熱・衝撃・摩擦を避ける。
消火方法 ◆燃焼することもあるが、一般に爆発性であるため消火は困難である。

 

ニトロセルロース
性 質 セルロースの硝酸エステルである。硝化綿・硝酸繊維素ともいう。
(セルロースは、(C₆H₁₀O₅)ₙで表される多糖類(炭化水素)で、綿はそのほとんどがセルロースである)
綿状または紙状で白色である。比重1.7ぐらい。
◆水に溶けない。
◆合成する際の硝化度に応じて、窒素量13%前後のものを強綿薬、12.75~10%のものを弱綿薬、10%以下のものを脆(ぜい)綿薬という。有機溶剤に対する溶解度ほ、窒素量により異なる。
◆強綿薬は無煙火薬、弱綿薬はダイナマイト・無煙火薬・ラツカー、脆綿薬はセルロイドにそれぞれ使われる。
セルロイドは硝化綿と樟のうからつくられる合成樹脂である。
危険性 ◆摩擦や衝撃に敏感で、爆発性がある。窒素量の多いものほど爆発しやすい。
自然分解する傾向がある。精製の悪いものは、分解により熱を発し自然発火することがある。分解は直射日光及び加熱により促進される。
貯蔵・保管 水分やアルコールを含ませ、湿綿状態で貯蔵する。また、自然分解を抑えるため、安定剤が添加されている。
◆加熱・衝撃・摩擦を避ける。
消火方法 ◆大量の水噴霧・泡消火剤・乾燥砂などを用いる。

 

性状ポイント

●硝酸メチル、硝酸エチルの引火点は常温より低い。
●ニトログリセリンは、水酸化ナトリウムのアルコール溶液で分解すると非爆発性になる。
●ニトロセルロースは、窒素含有量が多いほど、爆発の危険性が高くなる。
●空気中に長時間放置すると、分解して自然発火する。
貯蔵ポイント

ニトロセルロースは、エタノールまたは水で湿らせ、容器を密栓して貯蔵する。