硝酸

危険物の性質と火災予防・消化方法 - 第6類(酸化性液体)

硝酸は、工業的にはアンモニア(NH₃)を酸化して一酸化窒素(NO)をつくり、さらに酸化して生じた二酸化窒素(NO₂)に水を吸収させてつくられます。
火薬や医薬品、染料などの製造に利用されています。
一般には、純硝酸の水溶液のことを「硝酸」といい、濃度が高いもの(60~70%)を「濃硝酸」、濃度が低いもの(おおよそ30%)を「希硝酸」といいます。
第6類の判定試験では、標準物質として硝酸の90%水溶液が用いられます。

濃度98%以上の硝酸を発煙硝酸といい、濃硝酸に二酸化窒素(NO₂)を加圧して飽和させた物質です。
発煙硝酸は、赤色または赤褐色の液体で、硝酸よりさらに強い酸化力を有し、空気中で色の二酸化窒素を発生します。

硝酸(HNO₃)
性 質 ◆刺激臭のある無色の液体。
◆比重1.3~1.5。
◆水と任意の割合で溶け、その水溶液は強酸性を示す。
◆濃度の高いものは吸湿性が強く、空気中の湿気と反応して発煙する。
◆アルミニウムAl、鉄Fe、ニッケルNiはイオン化傾向が水素より大きいため、希硝酸と反応して水素を発生する。しかし、濃硝酸に対しては表面にち密な酸化物の被膜ができ、内部を保護する状態(不動態)になるため溶けない。
◆濃硝酸1体積と濃塩酸3体積の混合水溶液を王水といい、酸化力が非常に強い。白金Ptや金Auを溶かすことができる。
◆濃硝酸に硫黄S及びリンPを作用させると、それぞれ硫酸H₂SO₄及びリン酸H₃PO₄が得られる。
光及び熱に弱く、分解して二酸化窒素酸素を生じる。また、透明な液体は黄色を帯びる。
 4HNO₃ → 4NO₂ + O₂ + 2H₂O
危険性 ◆酸化力が極めて強いため、次の危険性がある。
硫化水素H₂S、アセチレンC₂H₂、二硫化炭素CS₂、アミン類R-NH₂ヒドラジンN₂H₄類などと接触すると、発火・爆発の危険性がある。
◆のこくず、木片、紙、ぼろなどの有機物と接触すると、自然発火の危険性がある。
アンモニアNH₃と接触すると、爆発の危険性がある。
アセトンCH₃COCH₃、酢酸CH₃COOH(無水酢酸)等とは激しく反応し、発火爆発の危険性がある。
アルコールやフェノールと反応する。
◆蒸気は不燃性であるが、極めて有毒で腐食性が強い。
◆皮膚に付着すると、重度の薬傷を起こす。
貯蔵・保管 ◆金属に対する腐食性が強いため、ガラス容器などを使用する。
◆容器に密栓して冷暗所(日光を避ける)に保管する。
消火方法 ◆水(散水・噴霧水)、水溶性液体用泡消火剤、粉末消火剤などを用いる。
漏えい事故対策 ◆漏えいした液が少量の場合、土砂などに吸看させて取り除くか、またはある程度水で除々に希釈したあと、消石灰(水酸化カルシウムCa(OH)₂)、ソーダ灰(炭酸ナトリウムNa₂CO₃)などで中和し、多量の水を用いて洗い流す。
◆漏えいした液が多量の場合、土砂などでその流れを止め、これに吸看させるか、または安全な場所に導いて、遠くから除々に注水してある程度希釈したあと、消石灰、ソーダ灰などで中和し、多量の水を用いて洗い流す。

 

発煙硝酸(HNO₃)
性 質 ◆濃硝酸に二酸化窒素NO₂を加圧して更に溶かしたもの。
◆刺激臭のある、赤色~赤褐色の液体。
◆比重1.5で、純硝酸86%以上を含む。
◆空気中では褐色のNO₂を発生する。
◆酸化力が濃硝酸より更に強く、酸化剤や二トロ化剤に使われる。
 ※危険性、貯蔵・保管、消火方法、漏えい事故は、上記「硝酸」を参照。

 

性状ポイント

●日光や加熱によって二酸化窒素を生じ、黄褐色になる
●濃アンモニアと接触すると爆発する。
●鉄、ニッケル、クロム、アルミニウムは、濃硝酸に溶けない。
貯蔵・消火ポイント

濃硝酸は、ステンレス鋼、アルミニウム製の容器に貯蔵する。
流出時は、土砂をかけ水で希釈し、ソーダ灰などで中和する。